人口減少時代の鉄道の未来と国鉄崩壊の歴史から学ぶべきこと

 

新型コロナウイルスの影響で鉄道の利用者が大幅に減少しています。

 

JR北海道が2021年春のダイヤ改正で一気に18駅を廃止すると決定をしたことは、鉄道業界へのコロナウイルスの影響の凄まじさを物語っていると言えるでしょう。

 

trafficnews.jp

 

他の鉄道会社においてもワンマン化や夜行列車の廃止が報じられており、業界全体として縮小していく未来を感じさせます。

 

 

鉄道業界はコロナウイルスによって急速に変化していますが、こうした動きはもともと予想されていた人口減少に伴う変化が急速に進んでいるだけともいえます。

 

利用者が確実に減っていくなか、鉄道業界の生き残りの道はどこにあるのか?

 

『人口減少と鉄道』では、JR九州を右肩上がりの成長に導いた著者が国鉄の崩壊から民営化後の鉄道業界について振り返るとともに、人口減少が進むこれからの日本で鉄道業界がとるべき戦略を示しています。
 

そして、国鉄がたどった歴史こそが人口減少時代の大企業が直面しつつある問題に対処する教訓になるとも述べています。

 

人口減少と鉄道 (朝日新書)

人口減少と鉄道 (朝日新書)

 

 

著者の石井幸孝さんは東京大学工学部を卒業後に国鉄に入社。

 

国鉄の崩壊と民営化後の再建の歴史に立ち合い、JR九州の初代代表取締役社長に就任しました。

 

2002年に退任し、現在は観光や地域活性化、国際交流などに携わりながら鉄道に関する多数の著書を出版しています。

 

 

この記事では人口減少時代の鉄道業界の生き残り策を紹介するとともに、国鉄の崩壊と民営化後の鉄道業界の歴史から学ぶべき教訓について述べていきます。

なぜ国鉄は解体されたか

国鉄が解体された理由を簡潔に述べるなら、

 

・時代の変化についていけずに赤字を出し続け
・それでも経営陣に危機意識はなく
・社員のモラルも低下し
・国民(利用者)にも見放され
・政府の介入が避けられないほど経営が悪化した

 

といったところです。

 

 

国鉄が赤字を出し続けた理由は自動車の普及と飛行機の大衆化です。

 

かつて日本国内の移動は隣町でも遠方でも鉄道を利用することが基本でした。

 

ところが、自動車の普及で近距離移動の客を奪われ、飛行機の大衆化で遠距離移動の客を奪われ、鉄道の利用者は着実に減少していったのです。

 

国鉄が初めて赤字に転じたのは1964年。

 

1949年の発足以来、初めての出来事でした。

 

1964年といえば東海道新幹線が開通し、東京オリンピックも開催された年。

 

戦後の復興の象徴として、

 

「世界に冠する新幹線」

 

ともてはやされた祝福ムードの陰で崩壊へのカウントダウンが始まり、民営化まで23年間一度も黒字になることはありませんでした。

 

 

しかし、そんな状況になっても経営陣に危機感はありませんでした。

 

「親方日の丸」なんて言いながら、最後は国が面倒を見てくれるから潰れることはないとたかをくくっていたからです。

 

大蔵省や運輸省が4度にわたって経営立て直しの計画を練ったもののすべて挫折し、末期には度重なる運賃値上げやストライキでますます利用者が離れていきます。

 

結局、組織内部からの問題改善に期待できないことから、鈴木善幸・中曽根康弘の両首相のバックアップの下で国鉄改革に向けた委員会が成立し、ついに民営化の道を歩むこととなったのです。

民営化とJR九州の戦略

民営化の末、国鉄はJR北海道、東日本、東海、西日本、四国、九州の6社とJR貨物に分かれました。

 

この中で本州3社と呼ばれるJR東日本、東海、西日本は当初から鉄道輸送業だけで黒字を出すことができました。

 

鉄道の利益率は事業エリアの人口密度に正比例するため、これらの会社は勝ち馬に乗って民営化後のスタートを切れたわけです。

 

ところが、他の3エリアではそうはいきません。

 

下の画像を見てください。

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『人口減少と鉄道』第1章より引用

JR九州、四国、北海道の3社は鉄道事業利益率がマイナスになっているのがわかります。

 

これは100円の売り上げを出すとJR九州では7円の赤字、JR四国では42円の赤字、JR北海道にいたっては63円もの赤字が出ることを意味しています。

 

つまり、この3社は電車で人を運んでいるだけではやがて倒産するということです。

 

 

ただ、九州では四国と北海道に比べれば赤字は少ない。

 

鉄道事業以外で赤字分をカバーすることで経営は続けられるということです。

 

そこでJR九州がとった戦略が多角経営でした。

 

エキナカ事業としてパンにアイスにラーメンとなんでも手を出す。

 

ただ電車で人を運ぶのではなく、駅を利用者にとって魅力あるものにし、電車に乗る「目的」に昇華させたのです。

 

さらにマンションやビルの開発といった不動産業、韓国との国際航路も整備にも手を広げました。

 

JR九州は鉄道事業に固執せず、柔軟に事業を展開することで鉄道事業での赤字をカバーし、複数の事業全体で利益を出す構造を作り上げたのです。

30年後には本州3社も儲からない

今は電車で人を運ぶだけで利益が出る本州3社も、将来安泰というわけではありません。


日本の人口は減少し続け、2050年には今より24%も人口が減るからです。

 

下の画像は、JR各社の事業エリアの人口が国全体と同じ比率で減少した場合の、2050年頃のJR6社の鉄道事業利益率の予測を示しています 。

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『人口減少と鉄道』第1章より引用

現在最も利益率が高いJR東海は2050年に3分の1まで利益率を減らし、JR東日本とJR西日本はほとんど利益が出なくなると予想されているのです。

 

「安定」の代名詞として就活でも人気の鉄道業界は、決して安定などしていないのです。

鉄道業界生き残りのカギは?

著者の石井氏は、人口減少時代に鉄道業界が生き残るために事業の多角化によって交流人口を増やすことを一つの解決策として示しています。

 

交流人口を増やすというのは、旅行や買い物のために電車に乗る回数を増やすということです。

 

要するに、人口が減少しても一人一人が電車に乗る回数を増やせば問題なくね?という理屈です。

 

そして鉄道会社が今後も生き残るためのその他の施策として、新幹線輸送と鉄道の海外輸出を挙げています。

新幹線輸送

新幹線輸送とは、文字通り物資の流通に新幹線を利用するということです。

 

 

トラック運転手の不足が叫ばれて久しい。

 

数年前、休憩をほとんど取れずに運転を続けたトラック運転手が高速道路で事故を起こしたのは、まだ記憶に残っている人も多いのではないでしょうか。

 

一方でネット通販の利用者と利用件数は増加しており、物流の担い手不足は日本の社会問題の一つになっています。

 

そこで、これまで点検や修理だけに使っていた夜の時間に新幹線を動かし、物資の流通に活用すればドライバー不足問題の解決につながり、鉄道業界にとっても新たなビジネスチャンスになるというわけです。

 

新幹線輸送のメリットはもちろんその速さですが、環境への負担が少ないことも大きなメリットです。

 

新幹線で輸送する場合はトラック輸送と比べてCO2の排出量を6分の1に抑えることができ、夜間の余剰電力の活用にもつながります。

 

ダイヤ調整や保守作業時間の確保などが障壁となりますが、新幹線輸送の実現は地方と大都市を結び付きを強め、大都市に人口が集中している問題の解決にも有効だと思います。

 

ぜひ実現してほしいですね。

鉄道の海外輸出

日本ではこれから人口が減り続けますが、世界全体、とりわけアジア諸国ではまだまだ人口が伸び続けると予想されています。

 

こうした国々には鉄道が整備されておらず、人や物のスムーズな移動が実現されていない現状があります。

 

そのため、日本の安全で正確な鉄道技術を輸出することができれば、日本の鉄道業界にとって大きなチャンスになると石井さんは考えています。

国鉄の歴史から学ぶべきこと

国鉄が赤字に転落した原因は自動車の普及と飛行機の大衆化による利用者離れでした。

 

しかし、崩壊にまでつながった原因はそれだけではありませんでした。

 

電車にいたずら書きをしたり、法律で禁止されていたストライキを行ったりと、国鉄職員のモラルの低下も大きな要因でした。

 

鉄道会社の職員が電車にいたずら書きをするなんて今なら考えられない話ですが、当時はそれほどまでに職員のモラルが低下してたということです。

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落書きされた国鉄時代の車両

そして末端の社員から経営陣に至るまで、慢心がはびこっていました。

 

今では乗客のことを「お客さま」と呼ぶことを徹底し、顧客第一主義が隅々まで浸透していますが、国鉄時代は「利用者」「お客」と呼んでいました。

 

「親方日の丸」で利益追求の精神などなく、「乗せてやってる」という精神で電車を動かしていたわけです。

 

だからこそ、大勢の利用者に迷惑をかけても平気で数日間のストライキを実施できたのです。

 

そんな国鉄の姿に国民が愛想をつかした末の崩壊劇でした。

 

***

 

鉄道業界の歴史を学ぶと、ある業界がかつての国鉄の姿と重なりました。

 

マスメディアです。

 

マスコミもその利用者を「読者」「視聴者」と呼び、「お客さま」なんて言葉はつかいません。

 

そして最近のメディアの報道姿勢を見ていると、国民に必要な情報や真実を届けようとしているとはとても思えません。

 

政治に忖度し、税金に関わる重大な不祥事よりも芸能ニュースを盛んに報じていることがその表れです。

 

数年前に起きた芸能人のスキャンダルを引っ張り出して政治家の不祥事の隠蔽に加担する様は、公共の利益のために報道するというメディアのあるべき姿からかけ離れています。

 

利用者の利益を一切顧みなかった国鉄職員の姿と重ならないでしょうか?

 

国鉄は利用者を顧みなかった結果、国民から見放されて崩壊の道をたどりました。

 

今、メディアも同じ道を辿ろうとしているように思えてなりません。

 

 

SNSで誰もが情報発信できるようになった結果、メディアは情報についての独占的地位を失いました。

 

それどころか一般人によってメディアの不正がSNSで拡散されるようになり、メディアへの信頼は揺らいでいます。

 

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国民は気づいています。

 

「マスコミって、全然信用できなくね?」と。

 

このままメディアとしての矜持を取り戻すことなく、不正と権力への忖度を続けていけば、いつか国民に見放される時が来るのではないでしょうか?

 

そうなる前に、国鉄の歴史に学ぶべきものがあると思います。